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塩のつく地名と塩泉の起源

 投稿者:河本  投稿日:2021年 3月 2日(火)15時21分33秒
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  1,「塩」のつく地名について。ひとつは塩の輸送路(塩の道)に由来するもの。もうひとつは、その場所で食塩分を含む温泉(冷温泉を含む)が湧出していることに由来するものが考えられます。前者の例として塩尻(塩の道の終点)が挙げられます。大鹿の鹿塩温泉(かしお)は後者の例です。

2.食塩分を含む温泉または冷泉の起源として、①海水そのものが温められて湧出しているもの(熱海・指宿など)。②千数百万年前~数百万年前(新第三紀)に海底に堆積した地層の粒間に含まれた古海水が湧出しているもの(津軽湯ノ沢など)。③マグマに溶け込んでいた水(マグマ水)が分離して湧出しているもの(箱根の一部など)。④火山帯ではないが3と似た性質をもつもの(有馬・鹿塩など)が考えられています。

3,温泉水にはさまざまな成分が溶け込んでいます。地下深部から地表へ上昇してくる間にさまざまの深さで物質が出入りします。地表または地下浅部で含まれている成分と、地下深部でもともと含んでいた成分が同じとは限りません。
 食塩(塩化ナトリウム)は溶液中ではナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)として存在します。ナトリウムイオンと塩化物イオンのそれぞれについて、起源を考える必要があります。また、もともと含まれていたけれども、地表へ上昇する過程で失われた成分もあるはずです。たとえば鹿塩温泉では、有馬温泉では多量に含まれているカルシウムイオンが失われています。

4,食塩泉の2の区分は、3の理由から、その成分ではなく、水(H2O)そのものの解析に基づいています。その方法は安定同位体比解析という、水素原子(H)の中の微量に存在する重い原子核を持つ重水素の割合と、酸素原子(O)の中に微量に存在する重い原子核を持つ重酸素の割合を調べることに依っています。
 この水素と酸素の安定同位体比が、①海水のH2O、②地層中に長期間閉じ込められた古海水のH2O、③マグマに含まれる水のH2Oでそれぞれ異なることが分かっています。④の有馬・鹿塩型のH2Oもマグマ水と同じ安定同位体比を持っています。

5,多量(数%)の水を含むマグマは、アンデス山脈や日本列島のような海洋プレートが沈み込んでいる沈み込み帯の火山帯のマグマの特徴です。ここでいうマグマ水は、正確には沈み込み帯の火山帯のマグマに含まれている水です。
 冷たく冷えた海洋プレートが沈み込んでいる沈み込み帯でマグマが発生するのは不思議ですが、沈み込む海洋プレートに含まれる水が関わっていると考えられています。
 海洋プレートの表層の地殻には、中央海嶺や火山島で海底に湧き出した溶岩が熱いうちに海水のH2Oと反応した水を含む火山岩が含まれています。また移動中の大洋底や沈み込み口の海溝に堆積した堆積物も水を含んでいます。沈み込む海洋プレートは沈み込みに伴って下方へ曲げられるため割れ目ができ、そこに海水が染み込むことも考えられています。
 沈み込みに伴い隙間にあった水は絞り出されて失われますが、鉱物に水酸基(‐OH)として結合した水は、地球内部へ運び込まれます。その一部は、沈み込まれるプレートの下のマントルに放出されます。深さ100㎞以深では沈み込まれるプレートの下のマントルの温度は約1400℃です。その深さでは高圧なほど岩石は融けにくくなるため、1400℃ではマントルは融けません。しかし海洋プレートから放出される水を受け取ると、岩石は少し融けやすくなるため、その一部が溶けてマグマが発生します。それが上昇して火山帯を造ります。沈み込んだ海洋プレートがまだ100㎞に達していない海溝と火山帯のあいだでは、地下の温度が十分に高くないので水が放出されてもマグマが生じません。

5,南海トラフと琉球海溝から沈み込んだフィリピン海プレートが深さ100㎞に達するのは山陰地方から九州中央部にかけてです。そこで生じたマグマが上昇して白山‐大山火山帯と阿蘇‐霧島火山帯を造っています。六甲や鹿塩の温泉水がマグマ水と同じ安定同位体比を持っているのは、フィリピン海プレートから放出された水が白山‐大山火山帯を造る深さに達する場所より海溝側から、マグマを造ることなく上昇したものと考えられています。
 一方、浅間山‐八ヶ岳‐富士山‐箱根‐伊豆七島にかけての富士火山帯の下では、太平洋プレートの深さは100㎞~150㎞に達しています。乗鞍火山帯の下では約250㎞下に太平洋プレートがあります。これらの火山帯は太平洋プレートから放出された水が造っています。

6,マグマ水に含まれるナトリウムイオンや塩化物イオンの起源はまだ分かっていません。定説になってはいませんが、私は塩化物イオンについては、海洋プレート上の溶岩の鉱物中に存在する微小な液胞からわずかに塩素が検出されることから、海洋プレート上に溶岩が
湧き出した時に取り込まれた海水起源の塩化物イオンの可能性があると考えています。

7,長野県の場合、中央を南北に通る糸魚川‐静岡構造線の東側は「北部フォッサマグナ」地域といい、新第三紀の2000万年前~数100万年前の海底に堆積した地層が山の上まで分布しています。
 「北部フォッサマグナ」は2000万年前から1500万年前にかけて、アジア大陸の東縁が割れて大陸から離れるように移動して日本列島になった(日本海の拡大)時に大きく沈降した地域の一部です。その変動時に沈降してできた海に堆積した地層や、変動後も残った海に堆積した地層に覆われています。しかし、長野県内の北部フォッサマグナ地域では、最後まで海が残ったところでも約500万年前には埋積され終わっています。これは現在の山地や盆地を造っている地殻変動が始まった約250万年より前のことです。
 一方、糸魚川‐静岡構造線の西側の北アルプス・中央アルプス・南アルプスを含む側は、アジア大陸だった時代に形成された古い岩石が露出しています。糸魚川‐静岡構造線の東側の「北部フォッサマグナ」地域のような大規模な沈降は無かったと考えられています。
 それでも1800万年前ごろの海底に堆積した地層が、守屋山・富草・和田地域に点在しています。日本海の拡大時には、こちら側の一部も水没して地層が堆積したことは確かです。

8,長野県内の塩泉には、日本海拡大時の海底堆積物中に含まれる古海水起源のものと、現在の火山帯のマグマ水起源のものがあるはずです。そのほか、稀ですが鹿塩温泉のような沈み込んだフィリピン海プレートから放出された水が火山帯を造らずに地表に達したものもあります。
 長野市の松代温泉は、高いカルシウムイオン濃度とともに高濃度のナトリウムイオンと塩化物イオンを含む食塩泉ですが、その起源をめぐっては古海水説とマグマ水説に分かれています。

9,このように「塩」がつく地名にも、「塩の道」に関わるものと「塩泉」に関わるものがあります。
 また塩泉にも、日本海拡大時の北部フォッサマグナを形成した変動で生じた海に堆積した地層を起源とする古海水と、現在の火山帯のマグマ水があります。
 古海水起源の塩泉の場合、その古海水を含む堆積物が堆積した海は、現在の地殻変動が始まるよりも数100万年前には失われていますので、現在の山地が隆起する直前に海域が広がっていた姿をイメージすることはできません。

10、最後に、H2Oの安定同位体解析のデータが含まれていない資料ですが、リンクを添付します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chitoka/25/0/25_KJ00005483114/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chitoka/26/0/26_KJ00005483136/_pdf/-char/ja
 
 
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