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フィリピン海プレートは隣接する海洋プレートとの境界が中央海嶺ではなく沈み込み帯になっている、特異なプレートです。
フィリピン海プレートは多数の海洋性島孤と背孤海盆で構成されています。それらを日本列島に近いところから見て行きましょう。
伊豆-小笠原島孤の西側には、かつて拡大した広大な背孤海盆が広がっています。
四国‐パレスベラ海盆
フィリピン海プレートの海底地形を見ると、伊豆‐小笠原‐マリアナ海溝の西側に伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤が南北に連なっています。また九州南東沖の南海トラフと琉球海溝が折れ曲がって接合している付近から沖鳥島を経てパラオに至る長大な九州‐パラオ海嶺があります。
かつては伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤は九州-パラオ海嶺の位置にありました。その後、伊豆‐小笠原‐マリアナ海溝と伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤は東へ移動し、背孤側に四国‐パレスベラ海盆が開きました。現在の九州-パラオ海嶺は古伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤が割れて四国‐パレスベラ海盆の西側に残った部分です。
この四国‐パレスベラ海盆の拡大は、すでに終わっています。現在の沈み込み帯から遠く離れた九州‐パラオ海嶺には現在はマグマ活動は見られません。そのような島孤を「非活動的島孤」といいます。一方、伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤のように現在マグマ活動が見られる島孤を「活動的島孤」といいます。
伊豆‐小笠原島孤の内部でも、小笠原付近では西ノ島などの火山が並ぶ活動的な小笠原島孤の前孤側に小笠原トラフがあり、その東に父島・母島などの小笠原列島があります。その東方に小笠原海溝があります。
小笠原列島は4800万年前にはるか南方の沈み込み帯で誕生し、現在の活動的島孤の前孤側に残った古い非活動的島孤です。
四国の中央部には紀南海山列の高まりがあり、かつての四国海盆の拡大軸と考えられます。四国海盆の地殻は玄武岩質です。背孤海盆の玄武岩の性質についてはこれから勉強したいと思っています。
この伊豆‐小笠原‐マリアナ海溝と伊豆‐小笠原‐マリアナ島孤の東方への移動と四国‐パレスベラ海盆の拡大は、古第三紀末~新第三紀中新世と考えられますが、その年代はまだ未確定です。このことは、櫛形・御坂・丹沢・伊豆の、それぞれの地塊の移動経路の復元に、決定的に影響します。
現在は、西南日本沖合の南海トラフから、この四国海盆の若い海洋地殻が沈み込んでいます。駿河トラフから西の沈み込み帯では、東海‐南海地震を起こしています。
南海トラフから沈み込む四国海盆が若くまだ温かいために、沈み込み角度はかなり低角です。
フィリピン海プレートの沈み込みによる火山は山陰海岸付近とその沖合に分布します。大山や三瓶山の火山を造っているマグマの一部には、水を含む温かい海洋地殻が融けたマグマが混入しているという報告があります。
現在拡大中のマリアナトラフ
マリアナ付近では、活動的島孤であるマリアナ島孤の西側に、マリアナトラフがあり、その西側に西マリアナ島孤があります。マリアナトラフは、現在拡大中の背孤海盆です。
西フィリピン海盆と大東海嶺群
九州‐パラオ海嶺の西側の「西フィリピン海盆」は、フィリピン海プレートの古い部分です。
フィリピン海プレートの形成史はまだよく分かっていませんが、古第三紀の約6000万年前の赤道付近のイザナギプレートと太平洋プレートのトランスフォーム断層で、プルアパート盆地のようなメカニズムで誕生したという考えがあります。
続けて西フィリピン海盆が南北に拡大しました。琉球海溝の東側に分布する東西方向に長軸を持つ「奄美海台」「大東海嶺」「沖大東海嶺」は北上した古い島孤です。
したがって現在、琉球海溝から南九州~南西諸島の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートは、古い海洋地殻であり、沈み込み角度は高角です。
南西諸島の背後の沖縄トラフは現在開きつつある割目で、背孤海盆に成長しつつあります。この開裂部の延長は九州の別府-島原地溝帯へ続いています。
このようにフィリピン海プレートは、海洋プレートとしてはとても起伏に富んでいます。沈み込まれている日本列島にとっては、沈み込んでいるフィリピン海プレートを理解することが必要と思います。
とくに櫛形・御坂・丹沢・伊豆の多重衝突帯を考える時には、その前段として、プレート移動、マグマの生成、海洋性島孤、背孤海盆の拡大などの知識が必要と考え、ここまで書いてきました。
注1:地殻の構成物質として、ここでは火成岩だけのように書きましたが、じっさいにはその上を覆う古い堆積岩や変成岩も含まれます。
もともと、地殻・マントル・核の区別は、地球内部を伝わってくる地震波を観測し、密度と圧力と温度で変わる地震波速度が急に変わる境界面を構成物質が変化する面として区分したものです。花崗岩質、安山岩質、玄武岩質の地殻中の地震波のS波の伝播速度は6~7km/秒です。その上のよく固結した堆積岩と半固結堆積岩の境界としては、S波の伝播速度3km/秒程度と思います。
注2:付加体の意味として、「沈み込む海洋プレート上の海洋玄武岩や遠洋堆積物と海溝堆積物が、沈み込みに伴って海洋プレートからはぎ取られ、大陸プレートに付け加わったもの」とすると、衝突によって大陸側のメンバーになった多重衝突体の地塊を付加体と呼ぶのは不適当という気がします。
その場合、衝突した海洋性島孤の背孤側の玄武岩をどちら側に含めるかによって、衝突地塊と付加体の境界をどこに引くかが問題になります。これは糸魚川‐静岡構造線の西側の竜爪山~高草山~焼津のアルカリ玄武岩を南部フォッサマグナに含めるかという論争に関係すると思います。
一方、多重衝突体も「衝突付加」として付加体に含めてしまおうという立場もあります。
私としては、海洋性島孤の衝突という特殊な現象は衝突された側に極めて大きな影響(たとえば関東‐赤石屈曲)を与えるので、、一般的な付加作用とは区別するべきと思っています。
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